次郎長生家とNPO法人地域づくりサポートネット


次郎長生家は、幕末に活躍した清水次郎長の生まれた場所で、その子孫が代々受けついできた家です。地域づくりサポートネットがこの生家に係るきっかけ、施設の改修、所有者による静岡市への寄贈までの経緯を整理します。

1. 次郎長生家に係るきっかけは東海道2峠6宿

●経過

次郎長生家(以下“生家”という)は、所有者に変わり、平成17年6月から市内財団が運営し、一般に公開していました。しかし、平成23年、公益財団法人への移行にあたり、民間所有で耐震性の弱い施設の管理は好ましくないとの理由により撤退することとなり、このため市は新たな運営団体を探していました。

NPO法人地域づくりサポートネット(以下”Tネット”という)は、平成20年から市内の6つの宿場と2つの峠をつないで地域の資源を見直し、楽しく歩く「東海道2峠6宿」の運動を進めていたことから、市から運営についての打診を受けました。さらに高齢である所有者から、誰かが面倒をみてくれなければ壊すしかない、是非引き受けてほしいなどの意向もあり、平成24年度から生家の運営を引き継ぐこととなりました。

●施設・運営の改善

運営の引き継ぎ後は、しばらくは毎週、休館日に大掃除を実施し、施設・展示物の清掃などを行い、生家を徹底的に磨き、破れていた玄関暖簾や提灯、敷物などを作り直しました。また次年度には雨漏り染みのある通路の壁の張替えと照明器具の改修等を行い、さらに来館者の駐車場ニーズに対応するため、夜間に運営する近隣の飲食店の協力を得て、飲食店の駐車場を昼のみ借用することにしていきました。

2. 建物改修への道

●思った以上の建物の破損

平成24年の台風で生家の屋根瓦の一部が破損しました。修理も含め調べてみると屋根全体がかなり深刻な状況であり、それに重なるように、2階を支える梁が割れる、羽蟻の大量発生、少雨でも雨漏りする等家の傷み方の半端が無い状況が次々と表れました。相当額の資金を投入し、改修が必要な時期にきていたのです。

●生家存続に立ち上がる

「このままでは次郎長生家が無くなるかもしれない!」ここは、清水の財産として町の人々が支え、存続させ、生家を活かした具体的なまちづくりを考え、行動することが必要でした。所有者と色々と相談していくなかで、風間市会議員が清水の商店主や経済人に声をかけてくれ「次郎長生家を活かすまちづくりの会」が牧田充哉会長のもと平成25年3月に立ち上がりました。

●改修へむけての資金集めと大きな転機

会では、まずは屋根を修復しようと、資金集めコンサートなどの募金活動を行いました。しかし、屋根を修復するには柱や梁を直す必要があることが分かり、資金的に厳しい状況でした。平成26年10月にメンバーの商店主の春田哲弥氏が、優勝すると耐震費用を出してくれるという民間の団体が主催する「あなたの残したい建物コンテスト」にチャレンジすることを提案し、色々な方の協力もあり、なんとフェイスブック投票で1位になり、耐震改修の機運が高まりました。

●建物改修への道

これで、資金面は解決したと一同喜んだのですが、安易な改修は江戸末期の建物である生家の良さを壊してしまうことに気が付いたのです。旧清水湊の普通の庶民の建物で、伝統工法の生家をきちんと改修するためには、伝統工法の建物の改修実績がある職人と歴史的な建造物を専門とする学識者がチームを組んで取り組まなければならないのです。費用もないなかハードルの高い条件だったのですが、マルワ建工の伊藤貴広氏や建築家の杉山智之氏、歴史的な建築、都市計画等に造詣が深い塩見寛氏、伊藤光造氏が全面的に協力し、この難問に対応してくれました。

改修工事費用の2/3はコンテストを主催した「一般社団法人耐震住宅100%実行委員会」が提供してくださり、残りは地元で得ていくため、様々な資金集めを行い、多種多様な調整には不動産スペシャリスト秋山浩史氏や商店主の福井智和氏らが動き、サポートネットが助成金等の手続きを行ってきました。さらに、任意団体である「活かす会」のNPO法人の取得を進め、コンテストから2年後の平成29年1月に工事着工までこぎつけ、その年の7月8日には竣工式をむかえることができたのです。

●国登録有形文化財への登録

この工事に前後して、市を通じ国の登録有形文化財への登録作業を進めていました。最終的には、平成30年3月に登録が実現しています。

●生家が静岡市に贈呈されました

平成29年、生家の工事完了を見届けた後、100才を越えていた所有者の豊野さんが亡くなりました。豊野さんとともに生家改修に尽力していた娘の千恵子さんは改修した生家を静岡市に寄贈することを表明してくださり、活かす会が相続等の諸問題を解決しつつ、静岡市への受け入れについてサポートネットが調整してきました。そして、平成30年5月20日に贈呈式を行い、6月1日からは静岡市の施設となっています。